モントットーネ村から

第11号 麦刈りの季節

2004年6月16日

 ご無沙汰しております。三ヶ月も届かないと、さすがに「モントットーネ村から」は廃刊したと思われた読者の方もいらっしゃるにちがいありません。仕事が忙しかったわけではありません。残念ながら。残念ながらと言うのは、相変わらず無職だからです。小さな村では、小遣い稼ぎのバイトも見つかりません。あいかわらず、翻訳修業をつづけております。前回訳した「反戦の手紙」の作者テルツァーニ氏の最新作をどこかの出版社に売り込んで、また翻訳してやろうとか、彼の過去の作品やら、いろいろ考えてはいるのですが、家にこもって「克己」を座右の銘にひたすら机にかじりつくと言うのはなかなか厳しいものであります。そんなこんなで、私事から世界の動きまで、さまざまなことで頭が一杯になって、却って何も言葉にならなかったのが、しばらくご無沙汰していた理由です。

↑実りの「初夏」

 ともあれモントットーネも春は終わり、初夏です。真夏に向けて空気がどんどん乾燥して行きます。日本が梅雨に入ってジメジメした夏を迎えるのと、丁度、逆です。「冬ジメジメ、夏カラリ」というのがこちらの気候なのです。夏はイタリアで、冬は日本で過ごせないものか、そんなことを時々思います。

 今は麦の刈り入れの季節です。最初の写真が刈り入れ前、次が刈り取り後です。田んぼに囲まれた小学校に通っていた自分には、「収穫の秋」という固定観念があるようで、この時期の麦畑を見るたび、奇妙な気分になります。自分の生まれ育った土地の四季感覚というのはなかなか抜けないようです。この丘だらけの村では畑はどこもかなりの急斜面にあります、一昔前まではよく死に神が手にしているような大鎌を手に、家族総出で麦刈りをしていたそうで、かなりの重労働であったそうですが、今はランボルギーニが走りまくっています。ランボルギーニとは言っても、当然スーパーカーのカウンタックではありません。後輪が人の背ほどもあるトラクターです。ランボルギーニは元々トラクターのメーカーで、そこで培われたお化けのようなパワーのエンジンを生かした社長の趣味で作りはじめたのが、スーパーカーだと言う話です。そんなわけで、モントットーネにはランボルギーニのオーナーはみな、赤ら顔の農夫のおっさんたちです。

 そう言えば、今日のテレビ・ニュースでランボルギーニのパトカー(Lamborghini Gallardo 500cv)が出現したと言っていました。

「臓器移植手術の際に迅速な臓器輸送を可能にする」なんて今思いついたばかりのような使用例を警察は説明していましたが、時速三〇〇キロで高速道路を飛ばされた日には、目的を果たす前に他の事故患者が出そうなもんです。唯一のスーパーパトカーの、これまた唯一のドライバーである警察官がインタビューに答えていましたが、「みんな、どのくらいのスピードが出るかって聴くんですよ」なんてかなり嬉しそうな顔をしてました。実に車好きの多い国らしいニュースでした。ちなみにこれはランボルギーニからのプレゼントだそうで、税金は使ってないと警察は言ってますが、500馬力のエンジンが飲んだくれるガソリン代は誰がプレゼントしてくれるのでしょうね。

この写真にも、上の二枚にも農家がうつってますが、どれも廃屋です。村外れにはこのような廃屋がたくさんあります。広い土地付きで、捨て値で購入できるそうですが、修理代が馬鹿になりません。ドイツ人やイギリス人、または大都市のイタリア人が別荘として、購入、改修することが多いです。またはアグリツーリズモ(農家風ホテル)として再利用されることも最近はよくあります。わたしたちが結婚式をしたのもそんなアグリツーリズモの一つでした。
 友人にこういう農家をもっているのがいて、会うたびに「うちらもアグリツーリズモをやろう!日本人をいっぱい呼んで」なんて話しになるのですが、もう五年もそんな「話」ばかりで終わっております。
わたし>「日本人は『体験』するのが好きだから、乳搾りをさせたり、ブドウ狩りをさせれば、一石二鳥じゃないか!」
友人>「そいつは素晴らしい。じゃあ、うちらも村のキレイどころを集めてゲイシャをさせよう。それでもうけたお金で、今度はうちらが日本のゲイシャに会いに行くんだ!素晴らしい!」
……まあ、夢みたいな話しですが、おなじ夢をサカナに何年も同じ会話を楽しめる彼らの感覚は、実にイタリア的だなあと毎度感心させられます。さまざまな夢を冗談半分にでも、彼らほど飽きずに語りあっていれば、一つくらいは実現してしまうものかもしれません。




モントットーネより
飯田 亮介


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